前回のブログで「かかりつけ薬剤師育成プログラム」を発表した背景やプログラム概要についてご紹介しました。
お陰様で沢山の医療関係者の方から反響を頂き、薬局・ドラッグストアは言わずもがな、メーカーや医薬品卸の皆様にとってもHOTなテーマである事を再認識しました。
そこで今回から4回シリーズで本プログラム内にある各研修についてご紹介していきます。
今回は1年目研修をご紹介します。本研修のテーマは、
「薬局実務における論理的コミュニケーション」
(「分ける」ことで「分かる」コミュニケーション)
です。
2016年7月のブログ「薬剤師に求められるコミュニケーション(言語編)」でご紹介した内容をベースにしています。
昔から「文章を書く時は「起承転結」を意識しなさい!」と言われますが、この背景には、
「読み手の納得感を高める為には情報を分ける必要がある」
という教訓があります。
一方、口頭の場合はどうするか?ポピュラーな分け方は・・
「結論・理由(事実)」
でしょう。短時間で相手の納得感を高めるのに有効な分け方です。
例えば、医局前の廊下で診察終わりの医師を待つMRは、短時間で自らの主張を医師に理解してもらう必要があります。
そんな背景よりMR向けの研修内容の一つに「エレベータートーク」があります。エレベータートークとは、
「行先の階に到着するまで(30秒程度)に、相手に納得してもらう為の話し方」
です。
「先生!A薬剤への切り替え(結論)のご検討頂きたくお時間を頂戴しました。その理由は3点あります。
一つ目は有効性について、〇〇のデータより△△という薬効が確認されました!
二つ目は安全性について、××のデータより◇◇という副作用の心配はありません!
三つ目は利便性について、■■のデータより服薬コンプライアンスを維持しやすいです!
以上、3つの理由よりA薬剤への切り替えをご検討下さい!」
という様なイメージです。この伝え方であれば結論と理由に分けられている為、短い時間でも医師に理解してもらえる可能性は高まるでしょう。
では、どの様に結論・理由(事実)に分けるればよいか?
「ピラミッドストラクチャー」
(2017年10月 コミュニケーションテクニックの活用:第四回『ピラミッドストラクチャー』も参照下さい)
という考え方を使って分けます。具体的には3つのステップで進めます。
ステップ①:皆さんが持っている事実情報を似たもの同士に分ける(例:有効性・安全性・利便性)
ステップ②:分けた情報群毎に「一言で言えそうな事」を考える(要約する)
ステップ③:ステップ②で要約した情報(2~3つ)を「一言で言えそうな事」を考える(要約する)
上記③で考えた事が結論、②で考えた事が理由、①の情報は事実、となります。
話しが分かりやすい人の頭の中では上記①~③が習慣になっています。
「なんだか難しそうだし、面倒くさい・・」
と感じた方もいらっしゃると思いますが、この脳内作業を習慣化する過程は、自転車の補助輪が取れるまでの過程と同じく、
「繰り返す」
事です。本研修では「ノック実習」と題し薬局の実務場面を想定した複数のお題(例:30秒で上司に相談する、30秒で医師に提案する)に取り組む中で、
この脳内作業(台詞づくり)と30秒の発話実習を繰り返し行います。
この実習を受けた参加者の声として、
「今までの自分は情報の伝え方が遠回しになっており、相手が聞き取りにくい伝え方になっていた。今後は結論から報告するということを意識したい。」
「端的に決められた時間で相手に伝える事が苦手だったが、今回そのためのコツを教えて頂き、今後実践していこうと思う。また要約をする癖もつけていく様にしたい。」
などがあります。
学校生活ではエレベータートークの様な話し方が求められる事は多くないでしょう。
一方、薬局実務のあらゆる場面で「簡潔明瞭」な話し方が求められます。
例えば、
・お急ぎの患者さんに対する服薬指導
・診察中の医師への疑義照会
・上司・先輩への報連相
等の場面が考えられます。
また、ピラミッドストラクチャーは薬歴作成にも大いに活用できます。
(2016年11月『薬歴作成力向上研修』も参照下さい)
具体的には、
事実:S(主訴)・O(客観的情報)
理由:A(アセスメント)
結論:P(ケアプラン)
というイメージです。
S・Oを要約した内容がA。Aを要約(理由)した内容がP。
この様な構造になっている薬歴はS・O・A・Pが有機的に繋がり、他の薬剤師にも当該患者さんの治療経緯が見えやすくなります。
「良い薬歴とはメンバー(他の薬剤師)に読まれるもの」(談:井手口 直子先生)
ピラミッドストラクチャーは正にこの言葉を体現する考え方と言えるでしょう。
最後に、何故1年目に論理的コミュニケーションを実施するのか?に触れておきたいと思います。
その理由は2つあります。
1つ目は「コミュニケーションを取る事に自信を持って欲しい」からです。
新人薬剤師から聞く代表的な声として、
「そもそもコミュニケーションには自信が無い・・」
「コミュニケーションはセンスがものを言うのでは・・」
上記の様にに感じている方に向け声を大にして伝えたい事は、
「セオリー(例えばピラミッドストラクチャー)を学び、使いこなす訓練を行えば確実に上達する」
という事です。論理的コミュニケーションには活用範囲の広い代表的なセオリーが幾つかあります。
故にこの様なセオリーを「学ぶ」「訓練する」事で上達を感じやすく、「自分もやればできるかも・・」と自己肯定感が高まるのです。
2つ目は、新人薬剤師として初めて経験する「服薬指導」「疑義照会」「薬歴作成」「報連相」には論理的コミュニケーションのセオリーが求められるからです。
「実務で指導された事(例:結論から話しなさい!報連相をもっとしなさい!)の意味が初めて理解できた」
という受講者の声をよく耳にします。実務で指導される事の背景にはセオリーがあり、それを知る事をきっかけに、
「指導された事を実践しよう!」と思う方が増えれば嬉しい限りです。
「最高の教育はOJT」
という格言がありますが、弊社では薬局長・先輩薬剤師のご指導が最大限生きる様にサポートするのがOff-JT(理論と実践が融合する場)の役割だと考えています。
今後ともこの様な役割認識の下、地域で活躍できる「かかりつけ薬剤師」の育成支援をして参ります。